1. はじめに:2日間にわたる「司法面接研修」を受講してまいりました
6月1日、2日の2日間にわたり、朝から晩までみっちりと「司法面接研修」を受講してまいりました。
「司法面接」と聞いて、多くの方は警察や児童相談所など、特定の専門機関が行う特殊なものというイメージを持たれるかもしれません。実際に、今回の研修には北は青森から南は佐賀まで全国から受講者が集まりましたが、その所属は警察官、児童相談所職員、裁判所調査官といった方々ばかりで、「行政書士」としての参加は非常に異色でした。
では、なぜ法律実務を扱う行政書士である私が、場違いとも思える司法面接の研修に丸2日間を費やしたのでしょうか?
その答えは、2026年(令和8年)12月25日に施行される『こども性暴力防止法』(いわゆる日本版DBS)の運用において、事業者が直面する極めて重要な「初期対応の課題」を解決するためです。
本記事では、研修で得たリアルな気づきとともに、教育・保育事業者が絶対に知っておかなければならない児童への聴き取りのリスクについて解説します。
2. なぜ行政書士が司法面接を?こども性暴力防止法との深い関わり
こども性暴力防止法では、児童に対する性犯罪、性暴力、あるいは「不適切な行為」の疑いが生じた際、事業者は自らの責任において調査を行い、防止措置をとる必要があります 。
被害の申告は、必ずしも初めから警察に入るわけではありません。多くの場合、児童は一番身近にいる現場の先生(従事者)や保護者に被害を打ち明けます 。その第一報を受けた事業者や保護者は、当然「何があったのか」「誰にされたのか」を確認しようとします。
しかし、ここに最大の落とし穴があります。
事業所の対応ルールを策定し、法務を支援する立場にある行政書士として、この「初期の聴き取り(事情聴取)」がいかに危険であるかを現場の皆様にお伝えしなければならないという強い危機感がありました。それが、私が司法面接を専門的に学ぶに至った最大の理由です。
3. 絶対に知っておくべき「記憶の汚染」と「二次被害」のリスク
家庭や教育現場で、良かれと思って何度も児童に話を聞く行為は、法的に取り返しのつかない事態を招く可能性があります。
こども家庭庁が公表しているガイドラインにも、明確に以下の警告がなされています。
特に、児童等への聴き取りは、繰り返しの聴き取りによる児童等の心身の負担(二次被害)を生じさせたり、児童等の記憶の汚染を生じさせ、司法手続における証言の有効性を失わせたりすることにもなり得る 。
「記憶の汚染」とは何か
児童は大人に比べて、質問者の意図を汲み取ってしまったり、「こう答えたほうがいいのではないか」と迎合してしまったりする傾向が強いとされています。 現場の従事者や保護者が「〇〇先生に触られたの?」「どこを触られたの?」と誘導的な質問を繰り返すと、それが暗示や誘導となり、児童の頭の中で事実と異なる記憶が作られてしまうことがあります。これが「記憶の汚染」です 。
一度記憶が汚染されると、後から警察や専門家が介入しても、どれが本当の事実だったのか判別できなくなります。その結果、児童の供述の信用性が毀損され、加害者を適切に処罰できないなど、刑事・民事の裁判において多大な不利益を被る可能性があるのです。
事業者に求められる正しい初期対応
ガイドラインでは、このリスクを防ぐため、次のように指導しています。
犯罪であることが明らかである、またはその疑いがある場合には、二次被害、記憶の汚染の防止等の観点から、児童等への聴き取りは最低限にとどめることが必要である 。
しかし、「この事実を知らない事業者様及び保護者様が殆どである」というのが現場のリアルな実態です。だからこそ、弊所の関与先の皆様には、研修等を通じて正しい知識をインプットしていただく必要があると確信しています。
4. 司法面接研修のリアル:異色の環境と実践的ロールプレイ
今回の研修は、単に座学で専門知識を詰め込むだけのものではありませんでした。
警察官や児童相談所職員、裁判所調査官といった、まさに「日々、事件や困難な事案の最前線にいるプロフェッショナル」の方々と4人1組のグループを組み、ポジション(面接官、子ども役、バックエンドなど)を次々と変えながら実践的なロールプレイのワークを行いました。
プロとのワークで得た圧倒的な学び
異業種の方々とのワークは、行政書士という立場では普段絶対に得られない知見の宝庫でした。
事実を引き出すプロフェッショナルたちが、いかに言葉を選び、いかに子どものペースに合わせ、そしていかに「誘導を避けて」中立的な立場で事実を確認しているのか。その技術の高さと繊細さに圧倒されると同時に、この技術のエッセンスは、民間の教育・保育事業者様における「初期の事実確認」にも必ず応用できると確信しました。
痛感した「日頃のコミュニケーションの癖」
ロールプレイを通じて、私自身が最も痛感させられたこと。それは、「日頃いかに『クローズドクエスチョン』ばかりで会話しているか」という事実です。
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クローズドクエスチョン:「〇〇先生に叩かれたの?」(はい/いいえ で答えられる質問)
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オープンクエスチョン:「その時、何があったかお話ししてくれる?」(自由に答えさせる質問)
大人同士のビジネスの会話では、効率を重視してクローズドクエスチョンを多用しがちです。しかし、被害を受けたかもしれない児童に対してこれを行えば、あっという間に前述の「暗示・誘導」に繋がり、記憶の汚染を引き起こしてしまいます 。 「はい/いいえ」ではなく、児童自身の言葉で自由に語らせることの難しさと重要性を、身をもって体験することができました。
5. こども性暴力防止法への実務対応:今後の展望
今回の2日間の研修は、私にとって非常に有意義なものでしたが、これで終わりではありません。司法面接のスキルや児童への適切な対応方法は、一朝一夕で身につくものではないからです。
今後は、今回の研修で出会った有志のメンバーとともに定期的に勉強会を開催し、継続して研鑽に努めていく予定です。
また、ありがたいことに、今回の研修で使用された資料の公表等については許可をいただいております。
得られた貴重な知見やノウハウは、私の中だけに留めておくのではなく、今後のセミナー内容にしっかりと反映させ、皆様に還元していきたいと考えております。
6. おわりに:関与先の事業者様へのお約束
こども性暴力防止法(日本版DBS)の施行により、事業者には「児童対象性暴力等や不適切な行為の疑いを早期に発見する体制」と「事案発生時の適切な調査・対応」が法的義務として求められます 。
しかし、法律やガイドラインの文章を読んだだけでは、「具体的に現場でどう子どもに接すれば良いのか」「どうすれば記憶の汚染を防ぎ、子どもを守れるのか」までは分かりません。
繰り返しになりますが、弊所の関与先の事業者様には、今回私が得た知見をもとに、以下の場を通じて具体的な対応策を惜しみなくお伝えしてまいります。
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事業者・経営者向け研修(リスク管理と体制構築のポイント)
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現場従事者向け研修(日常的なコミュニケーションと初期対応の注意点)
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保護者説明会へのサポート(保護者への理解促進と協力の要請)
法律の施行に向けて、単なる書類上の準備(ひな形の作成等)に留まらず、「現場で本当に子どもを守れる体制づくり」を全力でサポートさせていただきます。
ご不明な点や研修のご要望がございましたら、いつでも弊所までよろしくお願いいたします。