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セミナー風景

1. はじめに:毎月セミナーのご報告と高まる関心

毎月恒例となっております当セミナーですが、今月も多くの方にご参加いただき誠にありがとうございました。

今回のテーマは、2026年(令和8年)12月25日に施行される「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」、いわゆるこども性暴力防止法(日本版DBS)についてです

今回特に印象的だったのは、参加される事業者様の顔ぶれの変化です。これまでの教育関係者に加え、保育所関係者や英会話教室の運営者様など、徐々にこの制度に関心を寄せ、主体的に情報収集に動かれている事業者様が増えてきていることを肌で感じました。

セミナーの前半では、制度の全体的な概要について林先生から分かりやすく解説していただきました。私自身は後半を引き継ぎ、主に「認定対象事業者」に向けた基礎研修を1時間半にわたり担当させていただきました。

本記事では、セミナーでお話しした内容のハイライトとともに、事業者様が実際に直面する「実務運用の難しさ」や「専門家活用のあり方」について深く掘り下げてお伝えします。

2. こども性暴力防止法(日本版DBS)の基本と認定対象事業者の立ち位置

こども性暴力防止法の目的

この法律は、児童等に対する性暴力等がこどもの権利を著しく侵害し、生涯にわたり心身の発達に深刻な影響を与え得るものであるという認識に基づいています 。教育や保育等を提供する事業者に対し、性暴力等の防止措置を講じることを義務付ける等により、こどもの心身の健全な発達に寄与することを最大の目的としています

義務対象と認定対象

この法律では、対象事業者が大きく「義務対象事業者」と「認定対象事業者」に分かれています。

  •  

    義務対象事業者: 学校(幼稚園、小中高校など)や児童福祉施設、認定こども園などが該当し、法律に基づく各種措置の実施が義務付けられます

  •  

    認定対象事業者: 学習塾、スポーツクラブ、英会話教室、放課後児童クラブの委託先など「民間教育保育等事業者」が該当します 。これらは一定の基準を満たすことで、こども家庭庁から認定を受けることができる制度となっています

今回のセミナーには、後者の「認定対象事業者」となり得る民間事業者の皆様が多数参加されました。認定を受けるか否かは任意ですが、認定を受けることで、こども家庭庁のウェブサイト上で公表されるほか、「認定事業者マーク(こまもろうマーク)」を広告等に表示できるようになります 。これにより、保護者に対して「安全・安心な環境整備に努めている事業者である」という強いアピールに繋がります。

 

3. 「不適切な行為」の言語化とルール化の重要性

私が担当した基礎研修の中で、参加者の皆様に最も強くお伝えし、また頭を悩ませていたのが「不適切な行為」の定義とルール化についてです。

「不適切な行為」とは何か?

法律上、児童対象性暴力等につながり得る行為として「不適切な行為」が定義されていますが、具体的にどのような行為がこれに該当するのかは、実は一律に決まっているわけではありません

こども家庭庁のQ&Aにも次のように記載されています。

「不適切な行為」は、事業内容等に応じて、その範囲が異なり得るものであることから、各対象事業者において、業務上の必要性を踏まえて「不適切な行為」の内容を定めるとともに、適切な防止措置を図る観点から、服務規律等に適切に反映することが必要です

つまり、「どこまでが業務上必要な指導・身体接触であり、どこからが不適切な行為になるのか」という境界線は、事業者自らが言語化し、ルール化しなければならないのです。

現場に即した言語化の難しさ

例えば、スポーツクラブにおけるフォーム指導のための身体接触や、保育現場での着替えの補助などは、業務上必要な行為です。しかし、これらが密室で行われたり、必要以上の過度な接触となったりすれば、「不適切な行為」に発展するリスクがあります。

事業者は、この曖昧なものを言語化・明文化し、従業員(対象業務従事者)に周知徹底しなければなりません。もしこの言語化を怠り、単に官公庁が提示するひな形をそのままコピー&ペーストしただけの規程を作ってしまえば、いざ現場でトラブルが発生した際、それが「不適切な行為」に当たるのかどうか、事業所として適切に判断・対処することができなくなります。

 

4. 事案発生時の重い責任:調査と事実認定は事業者が行う

セミナーで皆様の表情が一番引き締まったのは、「事案発生時の対応」についてお話しした時です。

こども性暴力防止法では、事業者に対し、単に犯罪事実確認(過去の性犯罪歴の確認)を求めているだけではありません。日々の運営の中で、児童対象性暴力等や不適切な行為の疑いが生じた場合、事業者は迅速かつ的確な対応を行わなければならないのです

疑いが生じた場合の「調査」の義務

児童等や保護者から「性暴力の被害を受けた」あるいは「不適切な行為をされた」という申告があった場合、事業者はその事実の有無及び内容について調査を行わなければなりません

もちろん、犯罪であることが明らかである、又はその疑いがある場合には、直ちに警察に通報・相談することが大前提です 。しかし、明確に犯罪(性犯罪・性暴力)と言えるかどうかわからない、いわゆる「不適切な行為」に該当するかどうかのグレーゾーンの事案については、事業者が自らの責任において調査・事実認定を行わなければなりません

  • 児童等の人権及び特性に配慮し、名誉及び尊厳を害しないように聴き取り等を行うこと

  • 加害が疑われる対象業務従事者の人権等にも配慮し、公正かつ中立に調査を実施すること

これらの難しい調査を、事業者は当事者間に入って行わなければならないのです。

事業者に求められる「事実認定」の重責

調査の結果、「児童対象性暴力等には該当しないが不適切な行為が行われたと合理的に判断される場合」には、事業者は当該従事者に対して指導を行ったり、行為が重大であれば対象業務から外す(配置転換等)などの防止措置を講じたりする必要があります

ここで問われるのが、「誰がその事実を認定し、処分を決定するのか」ということです。言うまでもなく、それは事業者の経営責任となります。事実認定を誤れば、児童や保護者からの信頼を失うだけでなく、処分を受けた従業員から「不当な処分である」として労働トラブル(不当解雇や不当配置転換の訴え)に発展するリスクも孕んでいます。

 

5. 訴訟リスクに備える:就業規則との整合性

こうした事案発生時のトラブルや労働訴訟リスクを回避するためには、法律で求められる「児童対象性暴力等対処規程」などの社内規程を整備するだけでなく、大元のルールである「就業規則」との整合性を完全に取っておくことが不可欠です。

懲戒事由の明確化

労働法制上の観点から、事業者はあらかじめ就業規則を見直しておく必要があります 。こども家庭庁の資料でも、就業規則において懲戒事由として以下の内容を定めるべきとされています

  • 重要な経歴の詐称

  • 「児童対象性暴力等」に該当する行為を行ったとき

  • 「児童対象性暴力等につながる不適切な行為」を行ったとき

「ひな形」をなぞるだけのリスク

行政のガイドラインには親切に「ひな形(参考例)」が用意されています 。しかし、前述の通り「不適切な行為」の定義は事業者ごとに異なります。

自社の業務実態に合っていないひな形をそのまま就業規則や対処規程に流用してしまうと、いざ不適切な行為が発生して懲戒処分を下そうとした際、「就業規則に明確な違反規定がない」あるいは「規程の内容が曖昧で該当するか判断できない」という事態に陥ります。

就業規則は会社の憲法です。こども性暴力防止法の施行を機に、自社のサービス提供のあり方、従業員の指導方法の範囲、そして万が一の際のリスク管理について、経営陣が本気で向き合い、自社の言葉でルールを再構築しなければならないのです。

 

6. 適切な専門家(行政書士・弁護士)の活用について

この法律への対応には、社内規程の整備、就業規則の改定、システム登録、そして実際の事案発生時の調査・対応と、非常に多岐にわたる専門知識が求められます。

専門家の関与は公式に認められている

こども家庭庁のQ&Aにも以下の通り、専門家の関与について明確に記載されています。

Q. こども性暴力防止法関係の行政手続について、他の事業者等への業務委託は可能ですか。 A. 交付された犯罪事実確認書の閲覧以外の業務については、行政書士及び弁護士に委託することが可能です。ただし、情報管理措置の全ての業務を他の事業者に委託するようなことはできません

つまり、事業者内部で行わなければならない極めてセンシティブな情報(犯罪事実確認書の閲覧等)の管理を除き、規程の作成や行政への手続等は、行政書士や弁護士に委託することが公式に認められています

どのような専門家に未来を託すべきか

ここで私が強く申し上げたいのは、「ひな形をなぞるだけの士業に、自社の未来を託してはならない」ということです。

「法律が施行されるから、とりあえず必要な書類を作りましょう」「このひな形に社名を入れておけば行政の要件は満たせます」という提案をしてくる専門家は少なくないかもしれません。

しかし、訴訟リスクをどう捉え、どう備えるかは事業者様の重要な「経営判断」です。

そして何より、子供達へ真剣に向き合い、安全な環境を提供しようとする事業者様の想いを、単なる書類の穴埋め作業で形にすることはできません。

  • 自社の現場で起こり得る「不適切な行為」のリアルなリスクを一緒に言語化してくれるか。

  • 事案が発生し、事業者が自ら調査・事実認定を迫られる「運用の難しさ」を理解しているか。

  • 労働法規に精通し、就業規則と社内規程の矛盾なき整合性を担保できるか。

こうした「実務における泥臭い課題」から逃げず、ともに悩み、事業所独自のルール構築を伴走支援してくれる専門家を選ぶことが、結果的に事業者自身を守り、ひいてはサービスを利用する子供たちの笑顔を守ることにつながります。

 

7. おわりに:子供たちと真剣に向き合うために

こども性暴力防止法(日本版DBS)の施行は2026年12月ですが、制度の理解から社内ルールの策定、就業規則の改定、そして従業員への研修・周知と、事業者がやるべき準備は山積しています

認定対象事業者の皆様におかれましては、この制度対応を単なる「行政手続きの追加」や「コンプライアンス上の負担」と捉えるのではなく、「自社のサービスの質と安全性を再定義し、社会的価値を高める契機」と捉えていただければと思います。

ひな形では決して対応できない現場の「運用」を見据え、ぜひ早い段階から、信頼できる適切な専門家にご相談されることを強くお勧めいたします。

今後も当セミナーでは、法律の最新動向や実務に直結するノウハウを継続的に発信してまいります。引き続き、子供たちの未来を真剣に考える事業者の皆様のご参加を心よりお待ちしております。

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