■ こども性暴力防止法(日本版DBS)とは何か?
「こども性暴力防止法」、正式名称は「学校設置者等及び民間教育保育事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」といいます。2024年6月に成立し、2026年12月施行予定です。この法律の一つ目のポイントは、子どもと接する職業に就く者に対して、性犯罪歴の確認(DBS照会)を義務化することにあります。
DBSとは「Disclosure and Barring Service」の略で、英国において性犯罪者が子どもに関わる職業に就くことを防ぐために設けられた制度が起源です。日本ではこれを参考に、独自の仕組みとして「日本版DBS」が導入されました。
制度の概要としては、学校や保育所、放課後等デイサービスなどの「特定事業者」については、職員採用時に性犯罪歴の照会が義務化されます。また、義務対象外の事業者でも任意での照会が可能な仕組みが整備されます。いわゆる「認定制度」により、照会を実施している事業者はその旨を示すマークを掲示できるようになり、保護者や利用者が安心して事業所を選ぶ指標となります。
■ 現場の実態:「そう言えばそんな話あったな」程度の危機意識
今回のセミナーに参加された事業所の方々と話していて強く感じたのは、「法律はどこかで聞いたことがある、でも自分たちには関係ない」という空気感でした。義務対象事業所のひとつである放課後等デイサービスでさえ、その認識の薄さは否めません。
「そう言えばそう言うの言ってたなぁ」という反応が多かったのが正直なところです。しかし、この法律への対応は待ったなしです。なぜなら、施行スケジュールはすでに決まっており、準備が間に合わなければ法令違反になりかねないからです。
障がい児通所支援事業所は、毎日子どもたちと密接に関わる「特定事業者」に該当します。この法律の趣旨を理解し、適切な体制整備を行うことは事業継続の根幹に関わる問題です。現場の管理者・経営者の皆さんには、ぜひ本記事をきっかけに「自分ごと」として捉えていただきたいと思います。
■ 行政書士として提言する3つの緊急対応
セミナーでは、行政書士の立場から今すぐ対応すべき3つの項目を提言しました。それぞれについて、詳しく解説します。
対応① 4月末までにGビズIDを取得する
GビズIDとは、法人・個人事業主向けの行政手続きオンライン共通認証システムです。日本版DBSの運用においても、事業者がオンラインで照会手続きを行う際にGビズIDが必要となる見込みです。
GビズIDの取得には、登録申請から審査・発行まで一定の時間がかかります。「いざとなったらすぐ取れる」と思っていると、申請が集中して発行が遅延するケースも想定されます。特に4月の制度運用開始を見越して、今すぐ取得手続きを始めることを強くお勧めします。
まだ取得していない事業所は、GビズIDのウェブサイトから「GビズIDプライム」のアカウント発行を申請してください。 GビズIDの説明はこちら
対応② 就業規則の改定(社労士・弁護士と連携)
日本版DBSの運用にともない、採用プロセスに「性犯罪歴の照会・確認」が加わります。この照会への同意取得、照会結果の取り扱い、採用可否の判断基準など、就業規則や雇用関連の内規に明記しておく必要があります。
就業規則の改定は、社会保険労務士(社労士)や弁護士と連携して行います。特に、照会結果に基づいて採用を見送る場合の手続きや説明義務については、労働法的な観点からも慎重に整備する必要があります。「形だけ整えた規定」では、いざトラブルが起きたときに事業所を守ることができません。
また、現職スタッフに対する照会については、どのタイミングで・どのような形で実施するかも規定しておく必要があります。既存スタッフへの配慮と法的要件のバランスを取ることが、現場の混乱を防ぐポイントです。
対応③ 求人広告・採用プロセスの見直し
日本版DBSの導入により、採用時に「性犯罪歴の有無」の確認が必要になります。これは求人広告の段階から応募者に明示することが望ましく、「当事業所では日本版DBSに基づき性犯罪前科がないことを採用条件とする」と記載することで、応募者への透明性を確保できます。
採用プロセスにおいても、照会の同意書取得のタイミング、照会の実施手順、結果の管理方法など、フローを整備しておくことが重要です。採用担当者が「どう動けばよいかわからない」という状況では、制度の運用が形骸化してしまいます。
さらに、求人広告において「性犯罪歴がない事」を求めることは、利用者(保護者)への安心感の提供にもつながります。「この事業所はしっかりしている」という信頼の醸成は、選ばれる事業所づくりの観点からも非常に重要です。
■ 1時間では足りない——法律の奥深さと運用の難しさ
今回のセミナーは約1時間の構成でしたが、正直なところ「1時間では到底足りない」というのが率直な感想です。法律の背景・概要・対象事業者の範囲・照会手続きの流れ・個人情報の取り扱い・不服申し立ての仕組みなど、説明すべき事項は山積みです。
特に「運用の難しさ」については、法律の条文を読むだけではわからない現場目線の課題が多々あります。たとえば——
・照会結果が出るまでの期間、採用をどう調整するか
・結果が「性犯罪歴あり」だった場合の告知と対応
・ボランティアや実習生など、非雇用者への対応範囲
・既存スタッフの照会拒否への対応
・個人情報保護法との整合性
こうした現実的な運用課題に答えるためには、法律の逐条解説だけでなく、事業所の実情に合わせた個別相談が欠かせません。セミナーはあくまで「理解の入り口」であり、その後の実務対応こそが本番です。
■ セミナーの反響と次回へのブラッシュアップ
今回参加してくださった事業所からは、「関連事業所にも広めたい」というありがたいお言葉をいただきました。横のつながりが強い福祉業界では、こうした口コミによる情報共有が非常に重要です。一事業所が動けば、地域全体の子ども安全への取り組みが底上げされます。
次回のセミナーでは、今回の反省を踏まえてコンテンツをブラッシュアップする予定です。具体的には、事例を用いた「こういう場合どうする?」形式のQ&Aセクションを充実させること、GビズID取得のステップバイステップ解説、各種規定所作成ポイントを図解で示すこと、などを予定しています。
また、セミナー内容の録画・資料配布についてもご要望をいただいており、今後の形式についても検討中です。より多くの事業所に届けるために、オンライン開催なども視野に入れています。
■ 問い合わせが増えています——お早めにご相談を
おかげさまで、こども性暴力防止法(日本版DBS)に関するセミナーの依頼やご相談が少しずつ増えてきています。施行スケジュールが近づくにつれて、今後さらに問い合わせが集中することが予想されます。
対応できる件数には限りがありますので、セミナーのご依頼や個別相談はお早めにどうぞ。特に下記のような方に向けたご支援が可能です。
・放課後等デイサービス・児童発達支援などの障がい児通所支援事業所
・学童保育・認可保育所・幼稚園などの子ども向け施設
・学習塾・スポーツクラブ・習い事教室など認定取得を検討している民間事業者
・複数の事業所を持つ法人の本部担当者
「うちは対象外だから大丈夫」と思っている事業所も、制度の全体像を把握した上で認定取得を検討することをお勧めします。認定マークの掲示は、保護者への信頼訴求に直結します。
■ まとめ——子どもを守るのは「制度」ではなく「人と組織」
こども性暴力防止法(日本版DBS)は、子どもたちを性暴力から守るための重要な制度です。しかし、法律が存在するだけで子どもが守られるわけではありません。事業所一つひとつが「自分ごと」として法律を理解し、実務に落とし込んでいくことが不可欠です。
行政書士として、私はこの法律の「入り口」を整えるお手伝いができます。GビズIDの取得支援、就業規則改定の方向性のアドバイス、採用フローの見直しサポート、児童性暴力等対処規定、情報管理規定、安全確保措置、情報管理措置——これらを入口に、社労士・弁護士など専門家とも連携しながら、事業所の体制整備を総合的にサポートします。
「何から手をつければいいかわからない」「うちは対象になるのか確認したい」「セミナーを依頼したい」——どんな些細なご質問でも、まずはお気軽にお問い合わせください。子どもたちが安心して過ごせる場所を守るために、一緒に動きましょう。