2025-12-26
制度概要
教育・保育の現場においてこどもを性暴力から守るための新たな法的枠組み、「こども性暴力防止法」(正式名称:学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)が2024年6月に成立しました。この法律は、こどもたちの心身の健やかな発達に寄与することを目的としており、2026年12月25日に施行される予定です。本記事では、事業者の皆様や保護者の皆様が知っておくべき、この法律の概要と重要なポイントを詳しく解説します。
1. なぜこの法律が必要なのか?(背景と目的)
教育・保育の現場における従事者からこどもへの性暴力事案は後を絶たず、こどもの権利を著しく侵害し、その心身に生涯にわたり回復し難い深刻な影響を与える重大な問題です。これらの現場には、従事者がこどもを指導する中で「支配的・優越的立場」に立ちやすく、「継続的」に密接な人間関係を築き、かつ保護者の監視が届かない「閉鎖的」な状況が生まれやすいという特性があります。
こうした特別な社会的関係を悪用した性暴力を根絶し、社会全体の責任として「こどもに対する性暴力を決して許さない社会」を実現することが、この法律の大きな目的です。
2. 制度の対象となる事業者と業務
本法は、事業の性質に応じて、取組が義務付けられる事業者と、任意で国の認定を受ける事業者の2層構造になっています。
対象事業者の区分
• 学校設置者等(義務対象): 幼稚園、小・中・高校、特別支援学校、高等専門学校、専修学校(高等課程)、認定こども園、児童福祉施設(保育所、児童養護施設等)、児童相談所などが含まれます。
• 民間教育保育等事業者(認定対象): 学習塾、スポーツクラブ、放課後児童クラブ、認可外保育施設、ベビーシッターマッチングサイト運営者などが対象です。これらの事業者は、国から「学校設置者等と同等の措置を講じている」との認定を受けることで、性犯罪歴の確認システム(日本版DBS)を利用できるようになります。
対象となる「業務」の基準
全ての職員が対象となるわけではありません。判断基準は、その業務がこどもに対して「支配性」「継続性」「閉鎖性」を有しているかどうかです。
• 一律対象: 教諭、保育士、塾講師、スポーツ指導員など、直接こどもを指導・養護する職種。
• 実態に応じて判断: 事務職員、送迎バスの運転手、調理員、清掃員、警備員など、業務の中でこどもと1対1になる可能性があるか、日常的な接触があるかといった観点から現場ごとに特定します。
3. 性犯罪歴の確認(日本版DBS)の仕組み
本制度の核心は、従事者が過去に特定の性犯罪を犯していないかを確認する「犯罪事実確認」の仕組みです。
確認の対象となる罪と期間
対象となる「特定性犯罪」には、不同意わいせつ、不同意性交等、児童ポルノ法違反、盗撮(性的姿態撮影等処罰法)、および各都道府県の迷惑防止条例や青少年健全育成条例違反などが広く含まれます。 確認対象期間は、刑の種類により以下の通り定められています。
• 拘禁刑(服役): 刑の執行終了等から20年。
• 拘禁刑(執行猶予): 裁判確定日から10年。
• 罰金刑: 刑の執行終了等から10年。
確認のステップ(事務フロー)
1. 申請: 事業者が採用内定者や現職者について、システム上で交付申請を行います。
2. 本人の関与: 申請を受けた従事者本人が、マイナンバーカード等を用いてシステム上で戸籍情報等を提出します。
3. 照会と回答: こども家庭庁が法務省に犯歴を照会し、回答を受け取ります。
4. 本人への事前通知(犯歴ありの場合のみ): 犯歴がある場合、まず本人にのみ内容が通知されます。本人は2週間以内に「内容の訂正請求」や、内定辞退等による「手続きの中止要請」を行うことができます。これにより、プライバシーを守りつつ、犯歴のある人がこどもに接する業務に就くのを防ぎます。
5. 証明書の交付: 犯歴がない場合、または本人が中止要請をしなかった場合に、事業者に「犯罪事実確認書」が交付されます。
4. 「初犯」を防ぐための多層的な安全確保措置
性犯罪歴の確認だけで全ての被害を防ぐことはできません。犯罪歴のない「初犯」による加害を防ぐため、日頃からの組織的な取組(安全確保措置)が義務付けられています。
• サービス従事者への研修: 全ての対象従事者に対し、こどもの権利、性的グルーミング(手なずけ)の手口、適切な身体接触の範囲などについての研修(座学・演習)が必須となります。
• 「不適切な行為」の防止: 性暴力の前段階となり得る「不適切な行為」(私的なSNS交換、二人きりでの外出、不必要な身体接触など)を明確に禁止し、服務規律として定めます。
• 環境整備: 施設内の死角をなくす工夫(ドアの窓を大きくする、パーテーションの配置工夫等)や、防犯カメラの活用、不定期な巡回などが推奨されます。
• 早期把握と相談体制: 定期的なアンケートや面談を実施し、こどもの異変を早期に察知します。また、こどもが安心してSOSを出せる複数の相談窓口(外部機関含む)を設置し、周知します。
5. 疑いが生じた場合の対応(被害児童ファースト)
性暴力の疑いが生じた際は、事実確定を待たずに「被害児童の安全」を最優先に対応します。
• 初期対応: 被害児童と加害が疑われる従事者を直ちに分離し、接触を回避します。
• 調査と連携: 児童の記憶を汚染させないよう、誘導的な聴き取りを避け、速やかに警察や児童相談所、弁護士等の専門家と連携して調査を行います。
6. 厳格な情報管理と社会的信用
犯歴情報は極めて機微な個人情報であるため、漏えいした場合には重大な人権侵害となります。
• 管理義務: 管理責任者の設置、閲覧者の最小限化、暗号化などの技術的措置が求められます。
• 廃棄・消去: 確認から5年が経過した年度末、または離職後30日以内に確実に廃棄・消去しなければなりません。
• 認定事業者マーク(こまもろうマーク): 認定を受けた事業者は、フクロウをモチーフにした「認定事業者マーク」を表示でき、安全な施設であることを可視化できます。
7. 今後のスケジュールと準備
• 2026年(令和8年)12月25日: 法律が施行されます。
• 現職者の確認: 学校等の義務対象事業者の現職者は、施行から3年以内(令和11年12月24日まで)に犯罪事実確認を完了する必要があります。認定事業者の現職者は、認定から1年以内です。
• 事前の準備: 施行に向けて、各事業者は対象業務の特定、就業規則(懲戒事由等)の整備、採用選考における犯歴の有無の事前確認(書面等)などの準備を進めることが推奨されています。